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R5.9.21 「民事信託」実務家支援セミナーが開催されました
R5.9.21(木)14:00から17:00まで、オンラインにより「民事信託」実務家支援セミナーが開催されています。
これまで30回ほど開催されているそうですが、今年は3月に続き2回目の開催となります。主催は、三井住友信託銀行です。
参加者は、自分が見たところ300名くらいで、その内、弁護士が最近増えて約3割とのことでした。
参加費が無料なのにもかかわらず、内容はいつものように充実しています。
同銀行の役員のお二人がそれぞれ、「民事信託の裁判例」と「民事信託のおける受託者義務とその監督」という講演をされ、充実した内容でした。
もう一人弁護士の先生(日弁連信託センターのセンター長といえばお馴染みの先生です)が「民事信託と相続の諸問題」と題して講演をされています。これが前者にもまして充実した内容でした。
「信託された財産は相続財産ではないので、残余財産の帰属権利者を『受益者の相続人が遺産分割協議により決する。』とすることはできない。」これは基本です。
ところが、信託の設定時に帰属権利者を決めかねるので信託が終了したときに決めてほしい、という委託者のニーズもあるので、それを信託でも実現できないかという問題意識が近時指摘されています。
そのために、受益権の相続 → 受益権の相続人による受益権の遺産分割協議、という形で帰属権利者を決めることができる、という構成が説明されることがあります。もちろん、単純な話ではないので、信託契約書中にそれを可能とする信託条項をいくつも入れることが必要となります。なるほどと感心させられます。民事信託の議論は日進月歩!!です。
ただ、これを委託者に説明したときに、どれだけ理解していただけるのかと思ってしまいます。
これは、この問題だけでなく他にも、たとえば信託終了時の債務控除を可能にする構成として、あるいは、信託終了時の登記を変更登記ではなく確実に移転登記とするための構成として、敢えて受益者連続にするという考え方があります。これを委託者や受託者に説明したとして、どこまで理解してもらえるでしょうか。それでなくても、基本的な事項も含めて、信託という制度自体、お客様だけでなく、司法書士にとっても理解が難しいところがあります。
ところで、先日ある信託契約書例を見ていたところ、「第〇条 本信託に定めのない事項については、受託者及び受益者が協議のうえ決するものとする。」という条項がありました。書籍やCDに掲載されていることもあり、最近あちこちで見かけます。この契約書例を作った先生は、おそらく普段のお仕事でも、売買契約書や賃貸借契約書にこのような一文を入れて作られているのでしょう。とても思慮深いと思います。
ただ、果たして信託でも同じなのでしょうか?売買契約も賃貸借契約も、さらには信託契約も契約である以上同じなのでしょうか?さらに近時、遺産分割の協議に際し、司法書士が中立的調整役としてかかわることが提唱されています。遺産分割協議が合意に至る過程で司法書士が中立的に調整役を務めるという意味です。信託契約についてもこれと同じように考えられるのでしょうか?信託の組成に関し、委託者と受託者の双方から依頼を受けて、司法書士が中立的に調整役を務める、ということがありうるのでしょうか?
話が長くなってしまいましたが、たとえばある問題を解決するために「信託の難問に挑戦」して敢えて複雑な構成を考えるのがいいのか、それとも信託の当事者にとって分かりやすいシンプルな構成がいいのか、悩ましいところです。他方で、議論されないところは取り残されて、いつまでも疑問のままになってしまいます。これも悩ましい。このセミナーを受講してそんなことを感じた次第です。